2012.11.23
「京都大学高校生フォーラム IN TOKYO ―松沢哲郎教授講演会―」が有楽町朝日ホールで開かれました。
昨年の山中伸弥教授講演会に続く企画で、京都大学主催、東京都教育委員会共催で都内の高校生が招待されました。
オランウータン、ゴリラ、チンパンジーはヒト科であり、とくにチンパンジーはヒトと並んでヒト族に属し、
遺伝子レベルでは1.2%程度しか違いません。サルではなくヒトの仲間です。先生は“あの人は”などと呼びます。
アウトグループを知るとイングループの本質を知ることができる、人間を知るにはチンパンジーを知るのが良い、
大学で哲学、大学院で心理学を学んで、その後霊長類学で理学博士という文字通り文理の枠を越えて学問を
追求してきた先生は、人間とは何かを実験的なデータに基づいてそれは「想像するちから」とおっしゃっています。
ただ、実験的と言っても、20世紀の、あるいは西欧的なチンパンジーの子を親から離して研究するのではなく、
親子がともに生活する場に寄り添いながら、親子の自然な関係性の中でさまざまな実験をするのが特徴です。
鴎友の現代社会で、松沢先生とアイの映像を教材で使っていた頃は、図形に近い文字を識別するだけだったのが、
今日の映像では漢字を理解し、数字を理解し、しかも0.2秒で数字の配置を記憶して再生する様子を見ると、
チンパンジーの知的能力は、ある面ではヒトよりずっと優れているところがあることを実感しました。
違うところは、いまここに在るものを見ているのがチンパンジー、無いものを見るのがヒトというところです。
人間には、時間・空間の広がりがあり、過去や未来のこと、死後や地球の裏側のこと、被災した東北のことを
考える力があります。 人間とは「想像するちから」で、絶望もするけれど、希望も持てるものであるということです。
講演の後、質問に答えてくださいましたが、鴎友生の“チンパンジーは自分をチンパンジーと理解しているか”という
質問に対しては、“写真を見せて誰かを答えさせる実験で、チンパンジー同士、あるいは人間同士では間違うが、
チンパンジーと人間を間違えることがないので、違うことを分かっているでしょう”と答えてくださいました。
また、コマーシャルに出てくる笑っているように見えるチンパンジー、実は悲鳴を上げている表情なのです。
laughとsmileとは違う、人間の微笑も、うれしい“笑い”ではないのですというお話にはびっくりしました。
質問に答えてくださる中で、野生のチンパンジーにも通じる鳴き真似をたくさん披露してくださいました。
多分、ライブでなければ聞くことのできない、貴重な体験をすることができました。先生、ありがとうございました。
興味を持たれた方は、『想像するちから』、『人間とは何か』(いずれも岩波書店)など先生の著作をお読みください。